「獄門島」は長年ランキング一位の名作
かつてテレビドラマや映画であまりにも人気でよく見ていたこともあってか、横溝正史の金田一耕助シリーズは、恥ずかしながらこの年になるまでほとんど読んだことがなかった。
ところがこの『獄門島』、『東西ミステリーベスト100』の1986年版に引き続き、2013年の改訂版においても、国内ランキングの堂々一位の作品という。
そこでとりあえず、読んでみることにした。
図書館で難なく借りられると思っていたのだが、文庫本を希望したのが悪かったのか、さらに地方の図書館からずいぶん古いものが取り寄せられた。
なんと昭和四十九年、十版とある。わたしがまだ子ども時代のものだ。
古本独特の黄ばみとにおい付き。昔の文庫本で字が細かい。読めない漢字にふりがながついてなくて困った。こんなのしかないのかとびっくりしたが、横溝正史の本は、もう新しく出版されていないようで、みなこれくらい古いものになってしまうようだ。
最後まで読めるかしらと心配になったけれど、そんな心配はまったくなかった。読み始めたら止まらない。さすがのおもしろさ。
スムーズに読み進められたのにはもう一つわけがある。じつはちょうど、大好きな長谷川博己氏が金田一耕助役の『獄門島』ドラマの再放送を見たばかりだったからだ。おかげで答え合わせをするような感じで読むことができた。
そんなのネタバレでおもしろくないではないかと思うかもしれないが、わたしはわりとそういうことは気にしない。そもそも一度読んだくらいでは覚えられない。理解できていないことも少なくない。だから何度でもそれなりに楽しめるお得なたちみたい。とはいえ、そんなわたしでも「もういいや」となる作品は当然ある。
何回読んでも、何度見ても、何かしら新しい発見ができる。しばらくすると、またのぞいてみたくなる。どんな話だったっけ、とまた読みたくなる。そういう得体のしれない魅力があるのが名作というものではないかと思う。
といいながら、横溝正史の作品は、地方の旧家の因縁がらみの似たような話が多い。好んでテレビドラマでいくつも何度も見ていたわりには、どれもごちゃまぜになって区別がついていないのだから偉そうなことはいえない。
この『獄門島』は、『本陣殺人事件』に続く、金田一耕助シリーズの第二作にあたる。『本陣殺人事件』が戦前、『獄門島』は金田一耕助が終戦後、復員船に乗って帰国した戦後の話である。
なぜミステリーベストのランキング一位に選ばれるのか?
『獄門島』は、殺され方とか、物語全体に漂うおどろおどろしい雰囲気に引き込まれてわかっていなかったのだが、トリックが非常に明確で、謎のすべてが無駄なくきちんと解決する。まるでミステリーのお手本みたいな話なのだとあらためて気づいた。
うやむやな謎が一切ない。途中まんべんなくヒントがちりばめられており、それがみごとに気持ちよく漏れなく回収されていくので、唐突感や卑怯さを感じず、むしろすがすがしい気持ちよささえ感じてしまう。
その一方、これほどまでの殺人をする動機がわかりにくいといった意見もあるが、そもそも人を殺すのに、誰もが納得するような理由などあるんだろうか。
遺言通りに殺人せざるを得なかった状況は、理解できるかどうかは別にして、きちんと書かれている。わざわざ見立て殺人を計画した主犯の人物像もまた、わりと丁寧に描かれている。物語に没入すれば、それほどわかりにくいとは思わなかったが、主犯の風流好きや芝居好きが影響しているのか、とくに和尚の最期は、芝居じみた大げさな表現に思われた。深刻な場面のはずなのに、何だか滑稽に思わないではなかった。
それも狙って書いているとすれば、横溝正史、おそるべしである。
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